大阪大学歯学部の4年生を対象に、特別講義を行いました。私は阪大の委託講師を務めています。
今回のテーマは、「デジタル化による歯科医療の変革」。そして、サブテーマに据えたのが「可視化」です。
まずは、頭脳ゲームで和ませてから
60分、いすに座ったまま話を聞き続けるのは、学生にとっても簡単ではありません。そこで、本題に入る前に頭脳ゲームを1つ入れました。
隣の人とペアになって、口頭だけで答えを伝え合う。正解を当てるというより、「伝える」ことに頭を使うゲームです。教室の空気が少しゆるんで、こちらも話しやすくなりました。
このゲームには、もう1つ狙いがありました。口頭だけで伝えることの難しさを、体で分かってもらうことです。
言葉だけでは、相手には同じ絵が浮かびません。順番を変えるだけで伝わらなくなる。説明しているうちに、自分でも分かっているつもりの部分が曖昧だったことに気づく。学生たちは、その難しさを笑いながら実感していました。
そして、そこからが本題です。伝わらないのは、伝える力の問題だけではありません。見せれば済むことが、見せていないだけ——この気づきが、そのまま「可視化」の入口になります。
ありがたいことに、そのあとの60分、居眠りをする学生は一人もいませんでした。
なぜ「可視化」なのか
歯科のデジタル化というと、CTやスキャナーといった機器の話になりがちです。ですが、本質はそこではありません。
デジタル機器が変えたのは、「見えなかったものが見えるようになった」ことです。骨の中の神経の位置、噛み合わせの接触、治療前と治療後の形の違い。以前は経験と勘で補っていた部分が、データとして目の前に並びます。
冒頭のゲームで学生が味わった「伝わらない」という感覚は、診療の場でも毎日のように起きています。患者さんに言葉だけで説明しても、頭の中の絵は人によって違います。見せれば一瞬で伝わることを、言葉だけで済ませていないか。デジタル化の意味は、ここにあります。
- 診断の可視化:CTで骨の量と形、神経や血管の位置を立体的に確認する
- 治療計画の可視化:手術の前に、入れる位置と角度をシミュレーションする
- 説明の可視化:画面を見ながら、患者さんと一緒に確認できる
- 結果の可視化:治療の前後を、データで比べられる
学生には、機器の名前を覚えるのではなく、「これは何を見えるようにする道具なのか」という視点で捉えてほしいと伝えました。
伝えたかったこと
講義の最後に、次の3つを話しました。
1つ目は、道具より前に、患者さんがいるということ。どんなに精密な機器を使っても、最後に決めるのは患者さんです。説明をしないまま治療を進めれば、デジタルの精度は意味を持ちません。
2つ目は、数字を読む力が要るということ。データが増えるほど、「この数値は何を意味するのか」を考える力が求められます。機器が出した答えを、そのまま患者さんに渡すわけにはいきません。
3つ目は、学ぶ場所は教室だけではないということ。臨床の現場では、教科書に載っていない判断が毎日あります。国家試験のあとも学び続ける姿勢が、そのまま診療の質になります。
終わってみて
学生の反応は、こちらが想像していたよりずっと具体的でした。話している側が、問いを立て直される。そういう時間でした。
教える側でありながら、教えられる時間でもあります。来年以降も、この場を大切にしていきたいと思います。
※ 本記事は講義の報告です。講義内容の詳細・資料については、大学の指示に基づき掲載していません。
このページの監修
山羽 徹医療法人山羽歯科医院 院長
- 日本口腔インプラント学会 認定専門医(登録番号 第1120号)
- 大阪大学大学院歯学研究科 非常勤講師/博士(歯学)
- 1999年からインプラント治療に取り組む